就労継続支援A型がつぶれるとどうなる?課題や対処法を解説2025.06.03
● 就労継続支援A型事業者が次々とつぶれてるって本当?
● 事業所がつぶれる原因はどこにあるの?
● もしも通っている事業所がつぶれたらどうなるの?
このような疑問や不安を抱えている利用者は多くいるでしょう。
障がいを抱えながらも社会で働くために一歩を踏み出している利用者にとって、就労継続支援A型事業所が閉鎖に追い込まれている現状は、痛ましい事実です。
閉鎖に追い込まれている理由は複数あるからこそ、現状を的確に把握すると対処法を見出しやすくなります。
- 就労継続支援A型事業所の基本概要
- 就労継続支援A型事業所がつぶれる原因と課題
- 閉鎖したあとの利用者と職員への対応と対策方法
就労継続支援A型事業所とは?
就労継続支援A型事業所とは、障がい者の日常生活と社会生活を総合的に支援するために発足された障がい福祉サービスの場を提供している場所を指しています。
一般的な民間企業で正社員として雇用されるのが難しいとされている人に対して、最低賃金以上の報酬を保証して雇用契約を締結します。
就労・生産活動の機会を設けると同時に、将来的には一般の民間企業に就労できるような知識・能力の向上を目的とした訓練支援を実施しているケースも多いです。
平成24年〜令和2年にかけて就労継続支援A型の総費用額、利用者数、事業者数はすべて右肩上がりで伸び続けています。
この上昇率は、障がい福祉サービス等全体の伸びを上回るほどの反響です。
ただし、令和3年度報酬改定において、複数の項目で基本報酬等の見直しがされたため、事業者が閉鎖に追い込まれる事例も増えています。
就労継続支援A型の対象になる利用者
就労継続支援A型は、各障害種別(身体障害、知的障害、精神障害、発達障害など)に該当する人と難病を持っている人が対象です。
さらに、以下の条件が含まれます。
● 就労移行支援事業に相談したが、企業などの雇用に結びつかなった
● 特別支援学校卒業後に就職活動をしたが、企業などの雇用に結びつかなかった
● 企業などを離職したり就労経験があったりするものの、現時点で雇用関係の状態にない
就労移行支援とは、知識や能力を向上できる実習や職場での経験を積んだあと、一般の民間企業への就職を希望する障がい者を対象にした支援制度です。
生産性のある作業能力と就労意欲があるかどうかが、重要な判断材料となっています。
ご自身の状態が就労継続支援A型事業所の利用対象に該当するかどうか判断できない場合は、各地域の障害福祉課の窓口にご相談ください。
A型とB型の違い
就労継続支援A型事業所と就労継続支援B型事業所の違いは、以下のとおりです。
就労継続支援A型事業所 | 就労継続支援B型事業所 | |
雇用契約の有無 | あり | なし |
報酬内容 | 最低賃金以上の給与が支払われる | 各事業所が定めている工賃が支払われる(最低賃金以上の決まりはない) |
対象年齢 | 65歳未満(例外あり) | とくになし |
就労継続支援A型事業所は事業所と利用者が雇用契約を締結するのに対して、就労継続支援B型事業所は雇用契約を締結しません。
雇用契約を締結していれば最低賃金以上の「給与」が支払われますが、雇用契約を締結していなければ成果報酬である「工賃」が支払われます。
つまり、就労継続支援A型事業所の利用者は、給与の保証があるなかで就労機会を得られる点において就労継続支援B型事業所と異なります。
サービス内容や制度概要を分かりやすく解説
就労継続支援A型は、一般就労がむずかしい人でも最低賃金を保証してもらい働く機会を得られる福祉サービスの一種です。
ここでは、就労継続支援A型事業所のサービス内容や制度概要について解説します。
事業概要
就労継続支援A型事業所とは、一般の企業への就労が困難な障がいや難病をお持ちの方に対して、雇用契約に基づいた就労機会を作る事業所を指しています。
そもそも就労系障害福祉サービスには「就労移行支援事業」「就労継続支援A型事業」「就労継続支援B型事業」「就労定着支援事業」があります。
まずは就労移行支援事業を利用して、企業に就職できなければ就労継続支援A型もしくはB型を利用するのが一般的な流れです。
令和3年1月の時点で、就労継続支援A型事業所は全国に3,922ヶ所あり、75,571名の利用者がいるとのデータがあります。
就労継続支援A型事業所では、最低賃金以上の給与が保証されていますが、最終的な目的は一般就労です。
就労継続支援A型事業所を含む就労系障害福祉サービスが一般就労に移行する人たちは増加傾向にあり、令和元年にはじめて2万人を超えました。
就労継続支援A型事業所の利用終了者の状況
就労継続支援A型事業所を離れた人たちのその後の進路は、以下のとおりです。
出典:厚生労働省(p7)
16,693名のうち25.1%の利用者が就職し、11.4%の利用者が就労継続支援A型を利用しているので、約35%以上の人は最低賃金以上の給与を持って就労を続けられています。
一方で7.8%の人が就労継続支援B型に移行しており、これでは最低賃金以上の給与はでないので日常生活や社会生活の自立はむずかしくなる可能性が高いです。
また45.3%ほどの人が「その他」に該当し、具体的な進路が明確になっていません。
就労継続支援A型事業所数の推移
就労継続支援A型事業所数の推移は、営利法人が設置する事業所数は増加傾向にありましたが、平成29年4月の指定基準見直しから横ばい、2024年に入ってからは減少しています。
出典:厚生労働省(p12)
特に、2024年3月から2024年7月にかけての5ヶ月間で全国175箇所のA型事業所が閉鎖しており、過去にないペースの減少率となっています。
この背景には、2024年4月に実施された障害福祉サービス等報酬改定で、評価が厳格化されたことが関係しており、経営基盤の安定していない事業所の閉鎖につながりました。
さらに、共同通信の全国自治体調査では、2024年3月〜7月のわずか5ヶ月間で329ヶ所の事業所(A型・B型)が閉鎖に追い込まれたと同時に、5,000名以上の利用者が解雇・退職されたと報告しました。
障がい者の年間解雇者数は4,000人が最多とされていたものの、2024年の5ヶ月間でその数値を大幅に上回る結果となっており深刻です。
障害福祉サービス等報酬改定によるA型事業所の閉鎖と利用者の就労環境への影響について、理解しつつ支援体制を見直す必要があります。
就労継続支援A型事業所が倒産・閉鎖する原因とその背景
閉鎖に追い込まれている就労事業所の多くは、就労継続支援A型事業所です。
なぜ、就労継続支援A型事業所が立て続けに倒産・閉鎖されているのか、その原因と背景について解説します。
公費に依存した事業所の撤退が進んで事業所数が減少
厚生労働省によると、就労継続支援A型事業所の一部は、はじめから助成金などの公費を受け取るために開設されている事例が多くあったと指摘されています。
「障がい者の社会生活を自立するための支援」という本来の目的が果たされずに、公費の役割が十分に機能していないA型事業所も見受けられます。
実際、一般就労への移行率が0%の事業所が半数以上を占め、一般就労を希望する利用者の割合も20%未満とのデータがあります。
また、就労継続支援A型サービスを申請するにあたって、利用者の一般就労を前提としていない自治体が40%以上存在していたことも本来の目的と乖離があるといわれる一因となっていました。
こういった現状に対して、評価方法の見直し・自治体の指導が入ることで、公費に依存していた収支の悪い事業所が撤退を余儀なくされ、全国の事業所数が減少傾向にあります。
A型事業所にとって、利用者の一般就労は、加算の対象となり、経営の安定化につながる重要な要素です。よって、公費を受け取るための形式的な支援ではなく、本来の目的を理解して利用者の一般就労を実現するために効果的な支援体制が求められています。
改正による評価の厳格化による事業所の閉鎖増加
一部事業所の助成金目当てと取れるような実態が目立つようになった背景もあり、2024年の障害福祉サービス等報酬改定では評価が厳格化されました。
スコア方式による評価項目の変更点は、以下のとおりです。
改定前の判定スコア | 改定後の判定スコア | |
労働時間 | 5〜80点 | 5〜90点 |
生産活動 | 5〜40点 | -20〜60点 |
多様な働き方 | 0〜35点 | 0〜15点 |
支援力向上 | 0〜35点 | 0〜10点 |
地域連携活動 | 0〜10点 | 0〜10点 |
経営改善計画 | - | -50〜0点 |
利用者の知識及び能力向上 | - | 0〜10点 |
判定スコアの変更に伴い、現在の評価方法では生産活動の収支や労働時間の増加など、利用者が利益を出さなければ基準を満たせなくなりました。
これによって、給付金や助成金を目当てで開設してまともに運営していない事業所が不正受給できないようなシステムになりました。
経営モデルの不安定さ
企業が運営する事業所を中心に、給付金や助成金の不正受給が問題視されている一方で、社会生活の自立を目指す障がい者の受け皿になっている側面も留意が必要です。
一般就労がむずかしい事情を考慮して仕事を割り振るので、一般的な民間企業と同じだけの生産性を期待するのは困難です。
つまり、利用者のために就労機会を設けているとしても、労働時間の長時間化や生産活動の黒字化を実現できない事業所もあります。
事業所としては「障がい者の雇用」と「収益の安定化」の両方を実現できる経営モデルを構築するべきですが、それが不安定な状態だと閉鎖に追い込まれてしまいます。
就労継続支援A型事業所が閉鎖した後、利用者や職員はどうなるのか
2024年の障害福祉サービス等報酬改定も大きく影響して、数多くの事業所が閉鎖に追い込まれていますが、在籍していた利用者や職員はどうなってしまうのでしょうか。
ここでは、就労継続支援A型事業所が閉鎖したあとに、利用者と職員に残された選択肢について解説します。
利用者に残された選択肢
利用者に残された選択肢は、以下のとおりです。
● ほかの就労継続支援A型事業所への転籍
● 一般就労を目指すために就労移行支援事業を受ける
● 就労継続支援B型事業所への移行
ほかのA型事業所への転籍ができれば、最低賃金以上の給与を受け取りながら、社会生活の自立のための就労機会を得られます。
もしも、事業所での経験が一般就労に役立てられそうだと感じるのであれば、就労移行支援事業を活用して就職活動する選択もあります。
ただし、これらのチャンスが得られそうになければ、就労継続支援B型事業所を活用するか、独自で就職活動が必要です。
ただし、就労継続支援B型事業所は雇用契約を締結せずに最低賃金の保証がないため、今よりも大幅に収入が減ってしまう可能性が高いです。
利用者の意思とは関係ない失業は不安を増幅させる大きな要因になるからこそ、もしも気持ちに余裕がなくなってしまったら、一時的に休息期間を設けてもよいでしょう。
息抜きして気持ちをリセットすると、前向きな気持ちで進路を考えられるようになります。
職員に残された選択肢
就労継続支援A型事業所の職員には、次のような役職があります。
● 管理者:従業員業務管理や指揮命令、利用者家族とのやりとり役
● 職業指導員:利用者が一般就労に向けた能力や知識の指導役
● 生活支援員:利用者が自立生活を送れるように健康管理や生活の相談に乗る業務
● サービス管理責任者:事業所のサービス向上のための業務
さまざまな役職がありますが、事業所が閉鎖されてしまうと、利用者を支えていた人たちも失業してしまう可能性があります。
企業として事業所を運営していたのであれば、別の部署に移ったり関連会社への転籍ができたりする場合もあるでしょう。
中小規模の事業所は失業リスクが高くなる傾向にあるので、転職活動が必要です。
職員としての業務経験があれば、経歴を活かしてキャリアアップできる可能性が十分にあるので、前向きに職探しを行ってみてください。
就労継続支援A型事業所がつぶれることを防ぐために必要な具体的対策
就労継続支援A型事業所がつぶれることを防ぐためには、まずは以下の2点が重要です。
● 柱になる事業の確立
● 一般就労を実現するための支援力向上
安定した経営を実現するため、2つのポイントを押さえた具体的な対策方法について解説します。
利用者のスキルアップ
就労継続支援A型事業所の労働時間や生産活動の数値を向上させるためには、利用者のスキルアップが必要不可欠です。
利用者に任されている業務内容は、梱包や配送などの軽作業からパソコンなどのデータ入力まで多岐に渡ります。
利用者の得意・不得意で業務を割り振るだけではなく、実際にゼロから作業能力を身につけられる機会を用意するべきです。
新しいスキルが身につけば、一般就労へのモチベーションになると同時に、生産性や品質の向上が期待できます。
収益モデルの多様化
安定した生産活動を実現するためには、一つの業務に依存せずに複数の業務を並行して運営するべきです。
ただし、まったく異なる業務を増やしてしまうと利用者の指導や管理において職員の負担が大きくなる恐れがあるので気をつけなければなりません。
たとえば商品の生産と販売をしているのであれば、店舗だけではなくオンライン販売をはじめたり、地域イベントに出店したりするだけでも収益モデルの多様化が実現します。
同じ業務の中で作業の幅が広がれば、生産性の安定を図りながら利用者のスキルアップも可能です。
いずれにしても柱になる事業を持つことが事業所として何より重要となります。
とくに、安定した売上が見込める事業を確立することで、評価方法の見直し・人材不足などの外的要因による影響を最小限に抑えて経営を安定させられます。
さらに主軸となる事業があれば、職員の役割や指導方法が明確化されるので、利用者に対しても一貫した支援環境を提供可能です。
職員研修
利用者の生産活動を黒字化するためには、利用者の支援や管理をする職員が成長できるような環境づくりが求められます。
従来のやり方に固執するのではなく、常に新しい福祉制度の理解を深める研修をしたり、ほかの事業所との交流機会を設けたりする方法があります。
また、専門家を招いてセミナーをしたり、現場でのロールプレイング研修を行ったりすると、職員一人一人の意識改革にもつながるでしょう。
職員が自信を持って業務に取り組めれば、その想いが利用者にも伝わり、生産活動の黒字化に影響して評価を維持できます。
地域との連動を強化
就労継続支援A型事業所が長く続くためには、地域との連携が重要です。
地元企業からの理解があれば、新しい事業計画やパートナーシップ締結のチャンスにつながりやすく、スコア評価も高くなります。
福祉事業に携わることで相手側にも信頼性や社会貢献などのメリットがあるからこそ、互いにウィンウィンな関係を築く絶好のチャンスになるでしょう。
まとめ
就労継続支援A型は、給付金や助成金の不正受給とも取れる運営体制が問題視され、2024年の障害福祉サービス等報酬改正によって、全国の事業所数が減少しています。すべての事業所が不正受給をしているわけではないものの、一般就労の難しい利用者を雇用しつつ収益化を実現するには、それなりの準備と対策が欠かせません。
今後は、事業所の柱となる事業を確立して収益性を高めるとともに、地域との連帯強化や一般就労への移行支援に取り組むことが重要です。
主軸となる事業から多様な事業展開を生み出し、新たな雇用創出・福祉と経営を両立するためのモデル作りを目指しましょう。
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