就労継続支援A型の開業手順は?収益モデルや注意点を解説2025.06.19
● 就労継続支援A型事業所を開業したいけれど、何から始めれば良いかわからない
● 就労継続支援A型の事業成功には、どれほどの収益が必要になるか知りたい
● 就労継続支援A型の事業を始めるうえで注意するべき点を知っておきたい
就労継続支援A型の事業所開業には、行政からの指定が必要です。この指定を受けるためには国が指定した基準を満たす必要があります。
利用者と職員が安心して働ける環境を整えるためにも、制度の基本概要、開業までの手順、収益モデルを細部まで把握するのが大切です。
さらに、開業前の注意点を確認し、スムーズな経営安定化を目指しましょう。
この記事でわかること
● 就労継続支援A型の基本概要
● 就労継続支援A型の事業所開業のための手順
● 就労継続支援A型事業所の収益モデル
● 就労継続支援A型事業所開業における注意事項
就労継続支援A型の基本概要
就労継続支援A型の基本概要とは、一般就労が困難とされる障がい者や難病を持つ人たちが、雇用契約に基づいて就労サポートを受けられる就労系障害福祉サービスの一種です。
ここでは、就労継続支援A型の基本概要を解説します。
事業概要
就労継続支援A型は、事業所と利用者が雇用契約を締結したうえで、一般就労するために必要な知識や能力を高めるための支援です。
最低賃金の保証があり、事業所は生産活動に係る事業の総収入から必要経費を差し引いた金額を利用者に支払う賃金総額を上回るよう義務付けられています。
利用者の一般就労が目的のため、サポート環境の整備に必要な職員配置、就労移行支援体制、就労移行連携などの加算制度が設けられています。
これにより、事業所の運営と利用者の就労の仕組みが安定し、長期的な事業所の継続が可能です。
対象者
就労継続支援A型の支援は、障がいや難病を理由に一般就労が困難な人たちに対して用意されています。
ただし、就労継続支援A型は最低賃金の補償があるため、事業所からの支援を受ければ雇用契約に基づいた就労が可能な人しか利用できません。
なお、現時点で一般企業に雇用されているものの、知識や能力を向上させるために一時的な支援が必要と判断された人も対象です。
利用者は65歳未満の制限がありますが、5年間サービスを利用して65歳になる前日までに就労継続支援A型の支給を受けられると決まっている場合、65歳以降も利用できます。
就労継続支援A型とB型の違い
就労継続支援は、A型とB型の2種類に区分され、いくつかの項目で違いがあります。
就労継続支援A型事業所 就労継続支援B型事業所
雇用契約 あり なし
報酬 最低賃金以上の給与が支払われる 各事業所が定めている工賃が支払われる(最低賃金以上の決まりなし)
対象年齢 65歳未満(例外あり) なし
A型とB型は、どちらも一般就労が困難な人のために用意されている就労支援事業です。
就労継続支援A型は雇用契約を締結しているため最低限の報酬が保証され、一般の企業で働くことに近いレベルでお仕事に従事します。B型は雇用契約を締結しないので自由度の高い労働環境のなかで支援を受けられますが、平均時給は令和4年の数字で243円です。
就労継続支援A型事業所数の推移
就労継続支援A型事業所数は、2015年(平成27年)3月から2024年(令和6年)3月まで右肩上がりで増加していました。
しかし、2024年4月〜2024年7月のわずか5か月間で約200事業所が閉鎖され、急激に減少しました。
この急激な減少の背景には、2024年4月に施行された障害福祉サービス等報酬改定によって、公費に依存した事業所が経営を続けられなくなった現状があります。
これから就労継続支援A型の事業所を開業するには、国が指定する基本報酬の内訳を把握し、安定した収益モデルの構築が必要です。
就労継続支援A型の事業所を開業するための手順
「障がいや難病を持つ利用者を支援したい」と思っても、誰でも就労継続支援A型事業所を開業できるわけではありません。
安定した経営を実現するためにも、法人設立から本格的な開業に向けた手順を適切に把握して、無駄のない開業計画を立てましょう。
ここでは、就労継続支援A型の事業所を開業するための手順を解説します。
①法人の設立準備
就労継続支援A型を含む障がい福祉サービスの運営は、法人格が前提条件です。
法人格には、株式会社・合同会社・一般社団法人・社会福祉法人・特定非営利活動法人などがあります。
また、A型事業所を運営する者が社会福祉法人に該当しない場合「専ら社会福祉事業をおこなう者」と規定されているので、状況によっては新たな法人格での開業が必要です。
法人設立で、定款作成や登記申請、法人番号の取得などの基本的な手続きを済ませると、A型事業所の信頼構築にもつながります。
②A型事業所物件の選定
法人設立後は、利用者と職員の安全性と利便性を配慮した物件選びに進みます。
車椅子に乗っていたり身体が不自由な人でも歩き回れるような物件構造や広さを確保すると、利用者が安心して働けるでしょう。
建築基準法の要件を満たしていない物件は安全性が担保されないため、状態によっては建築士への業務依頼が求められる場合があります。
また、200平米を超えると消防基準が厳しくなるため、その点も検討が必要です。
A型事業所物件に関する不安や疑問があれば、賃貸契約や物件購入する前に消防署や建築士指導課に相談しましょう。
③設備と職員の整備
就労継続支援A型の事業所開業には、障がい福祉サービスの基準に基づいた設備と人員(利用者をサポートする職員)の確保が義務化されています。
設備面については、訓練・作業室、多目的室、相談室、洗面所、トイレなど場所別に基準が設けられています。
バリアフリーに対応しているか、利用者のプライバシーが守られるような仕切りがあるかなどがチェック対象です。
なお、設備については地域によって基準が大きく異なるので、自身が開業したい場所の行政への確認が欠かせません。
就労継続支援A型事業所に必要な職員は、「サービス管理責任者」「管理者、職業指導員」「生活支援員」の3つに区分されます。
● サービス管理責任者:開業のために資格を満たす者が必ず1名以上必要
● 管理者:事業所ごとに1人(サービス管理責任者と兼務可能)
● 職業指導員・生活支援員:開業時の定員数に応じて、7.5人に1人、もしくは10人に1人
サービス管理責任者は「実務経験(障害者の保健・医療・福祉・就労・教育の分野における直接支援・相談支援などの業務における実務経験を5〜10年)」と「研修終了(相談支援従事者初任者研修とサービス管理責任者研修)」の要件を満たす必要があります。
管理者と職業指導員・生活支援員は、とくに資格等は不要です。
それぞれの配置基準を満たせるように、職員の募集を進めましょう。
④行政への指定申請手続き
A型事業所の物件選びや職員採用の準備が整ったら、指定申請の手続きをおこないます。
申請するためには、事業計画書、資金計画書、職員の資格証明書などの書類提出が求められ、不備があると再提出が必要になるので丁寧に準備してください。
指定申請の審査期間の目安は約1か月ほどですが、都道府県ごとの自治体によって期間が異なる場合があるため、各自で確認が必要です。
スムーズに申請手続きを済ませるためにも、不明点があれば積極的に自治体の障害福祉担当部局などに相談しましょう。
⑤指定書取得と開業準備
審査に通れば障害福祉サービス事業所指定書と呼ばれる書類が交付され、正式に就労継続支援A型事業所の運営が認められます。
よって、指定書が手元に届き次第、職員の研修や利用者の募集を開始できます。
A型事業所が所在する地域の福祉担当部局や精神保健福祉センター、近隣の福祉事業所、ハローワークとつながりを持っておくと利用者の募集をしやすいです。
また、積極的に外部の組織と交流すれば、生産活動においても連携しやすくなります。
就労継続支援A型事業所開業を成功させるための収益モデル
就労継続支援A型事業所の開業から運営を成功させるためには、持続可能な収益モデルの構築が重要な鍵を握ります。
ここでは、就労継続支援A型事業所の開業における理想的な収益モデルについて解説します。
公的報酬と加算の仕組み
就労継続支援A型事業所は、基本報酬と加算報酬の2つが収益の柱となります。
基本報酬(日額の報酬単価)は、利用者や職員の数に加えて算定されるスコア、加算報酬(追加の報酬)は、就労移行支援体制、就労移行連帯などの条件を満たすと支給されます。
2024年4月に施行された障害福祉サービス等報酬改定によって、基本報酬のスコア評価が厳しくなっているため、最新版のスコア評価を満たせるように体制を整えましょう。
生産活動の収入確保
就労継続支援A型事業所は、利用者と雇用契約を締結するため、労働法上「最低賃金以上の賃金の支払い」が義務付けられます。
利用者に支払う賃金はA型事業所で発生した生産活動の売上が原資となり、生産活動収入から経費を差し引いた金額が利用者に支払う賃金総額を上回らなければなりません。
一般就労が困難な利用者たちがおこなう生産活動として、倉庫での軽作業やパッキング、工業部品の加工作業、ものづくりや制作物の販売、農作業、介護、データ入力等のデスクワークなどがあります。
A型事業所の開業・運営を成功させるためには、利用者の就労支援と安定した収入源確保を両立させられるような工夫が必要です。
地域との連携
就労継続支援A型事業所は、民間企業や地域組織と連帯できるかどうかが重要視されます。
農業や食品加工など地域密着型の事業と密にコミュニケーションを取りながら安定した受注先を確保できれば、A型事業所の収益基盤の強化が可能です。
長期的な視点で収益を確保できる基盤を構築できれば、利用者への就労支援スタイルが固まるので、実践的なスキル習得にも期待が高まります。
開業前から、地域の商工会議所や福祉事業に対して理解のある企業を調べてアプローチしてみましょう。
就労継続支援A型事業所開業における注意事項
就労継続支援A型の事業所を開業する際には、開業から運営までの流れや収益モデルを構築するだけではなく、法令遵守も欠かせません。
開業・運営開始後に致命的なミスが発覚しないようにするためにも、持続的な運営に重要なポイントを押さえておきましょう。
ここでは、就労継続支援A型事業所の開業前に知っておくべき注意事項を解説します。
最低賃金以上の支払い義務
就労継続支援A型では、利用者に対して最低賃金以上の賃金を支払う必要があります。
生産活動の売上から経費を差し引いて赤字になるような状況でも、利用者への支払い義務は免れません。
根拠のない収益モデルを構築すると、開業後に経営難に悩まされ、事業所の閉鎖に追い込まれるケースが懸念されます。
持続可能な運営をするためにも、収支シミュレーションは丁寧におこない、必要に応じて助成金や地域支援も検討しましょう。
専門職員の確保
就労継続支援A型では、職業指導員や生活支援員など利用者の就労支援をする専門職員の配置が義務付けられています。
事業所数や利用者数の規模に応じて必要な専門職員が異なるので、指定された条件を満たせるだけの人数を確保できるよう、早めに採用を始めましょう。
福祉業界では、慢性的な人手不足が問題視されており、開業時に必要な専門職員を採用できたとしても、離職されてしまっては経営の存続ができなくなります。
利用者の支援環境だけではなく、職員の労働環境も整備できるような配慮が必要です。
地域社会からの認知と理解
就労継続支援A型の事業では、地域に根差しているかどうかが収益基盤の安定化に大きく影響するといわれています。
基本報酬のスコアにも「地域連携活動」の項目が組み込まれています。
地域社会から信頼を得るためには、地元の商工団体や行政とのコミュニケーションを密にとり、A型事業所の存在の認知・理解を目指しましょう。
A型事業所の利用者や専門職員が地域について理解を深めるのも重要であり、積極的に地域イベントや説明会に足を運んでみるのもよいでしょう。
まとめ
就労継続支援A型の事業所開業には、法人設立から物件選び、職員採用、指定申請手続きなど段階的な準備が必要です。
そして持続可能な運営に向けて、黒字を出せるような収益モデルの構築や専門職員の確保が欠かせません。
地域社会と密に連携しながら、利用者の支援環境と専門職員の労働環境を整備できるような運営体制を目指しましょう。
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