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第3回 日本障がい者就労支援学会シンポジウムレポート「最新科学を取り入れたこれからの就労支援のあり方」2022.10.03#新着情報

日本障がい者就労支援学会シンポジウムは、社会福祉分野の学者・専門家をお招きする基調講演と、全国各地にある障がい者就労支援事業者による事例報告(一般公演)の2部で構成されています。学会シンポジウムも3回目を迎え、今回も就労支援の現場からたくさんのノウハウが集まりました。本稿では、9月27日(火)に行われた第3回 日本障がい者就労支援学会シンポジウムについてレポートします。

第1部      基調講演「就労支援者として知っておきたい 現場ですぐに使える応用行動分析学(ABA)の基礎知識」

今回の基調講演には、ABAセラピストとして日々障がい者やその家族を指導されている坂本大祐先生をお迎えしました。

 

坂本先生は、公認心理師、臨床心理士、保育士、幼稚園教諭一種免許、小学校教諭一種免許、特別支援学校教諭一種免許などを保有する障がい者福祉の専門家です。

 

ABA(Applied Behavior Analysis:応用行動分析学)に基づき、科学的に証明されている理論を応用して、行動を教えたり修正したりする指導をされています。年間の指導時間は約2800時間にも及び、指導地域は国内18都道府県のみならず、フランス、韓国、中国など海外からの支援依頼もあるほど。

 

ABAは技術ですので、理論を学び練習すれば、就労支援の現場でも応用することが可能です。講演前には、参加する就労継続支援A型事業所の職員の方々に「利用者・メンバーへの対応、問題行動への対処で困っていることはないか」のアンケートを取り、ABAの基礎知識講演の後にはQ&Aの時間も設けていただきました。

 

坂本先生は、「どのように問題行動を捉えると、行動が改善できるでしょうか?」と講演の冒頭で問います。

・鬱病だから気持ちの浮き沈みがある

・自閉症スペクトラム障害だから相手の気持ちを考えられない

・ADHDだから落ち着きがない

ではなく、理由と診断名が逆であると仰います。つまり、

・気持ちの浮き沈みがあるから鬱病と診断される

・相手の気持ちを考えられないから自閉症スペクトラム障害と診断される

・落ち着きがないからADHDと診断される

 

他人や自分や組織がすべきことができないときに、その原因を性格とか能力とか態度などの《心》の概念のせいにして、どうすればできるようになるかを考えなくなってしまうことを私は『個人攻撃の罠』と呼んでいる。

出典:「人は、なぜ約束の時間に遅れるか」(島宗理)(P.155)

 

心の概念のせいにすると、行動の改善を諦めてしまい、抜本的な支援につながりません。

 

では、ABA(応用行動分析学)ではどう考えるのか?

 

ABAの元祖は有名な「パブロフの犬」で、ABAというと「動物と人間を混同するな」と批判があるそうですが、「動物にも理解させることができる方法を用いて、それを応用する」のがABAの特徴であるといいます。ABAは発達障がいや精神障がい関連の支援だけでなく、例えば「オフィスの生産性を上げる」「会社の業績を上げる」など、企業コンサルティングにも応用されています。「うまくやるための強化の原理―飼いネコから配偶者まで」(カレン・プライア)という書籍のタイトルのとおり、飼いネコから配偶者まで応用できるのです。

 

基調講演では、

・行動観察、記録の仕方のポイント

・ABC分析の方法

・記録をつけるメリット

・行動が強まる原理

・行動が弱まる原理

・行動の機能

などについて、例を挙げながら解説していただきました。

 

坂本先生からは、「利用者に配慮しすぎるのも良くない。配慮しすぎると、心地よい環境でないと働けなくなるので、根本的な就労支援にならない」というアドバイスもあり、とても印象的でした。

 

 

第2部 一般講演「全国の就労支援事業所による事例発表」

活動報告のアジェンダ

・一般就労の成功事例

・支援の課題事例

・自社独自の取組事例

 

活動報告の内容(一部、テーマのみ抜粋)

● 一般就労の成功事例

・一般就労が決まるまで事業所で取り組んできたこと

・一般就労の未経験分野への挑戦

・一般就労に向けての一緒の足踏み

・B型からA型に移籍し、5ヶ月後に思わぬ形で一般就労を果たした30代女性の成功事例

・施設外就労を経ての一般就労

● 支援の課題事例

・施設外就労の進め方

・通所意欲を上げるための支援

・作業能率向上について

・メンバーさんの異変に気付くスタッフの育成について

・メンバー間の作業における不満について

・利用者との距離感に対して悩んだ事例

・利用者同士の交際について

・燃焼した自己満足の支援

・一般就労への気持ちの切り替え

・ADHDの障がいを持つメンバーさんへの対応

・メンバーさん主体の支援

・高機能自閉症者に対する就継A型支援の一例

・「性同一性障害」の方の支援のあり方について

● 自社独自の取組事例

・メンバーの評価制度

・ほまれブランドの開発

・商社・メーカーと取り組むSDGs収益モデル

・毎朝の声掛けでセルフエフィカシーを高める

・「見える化への取り組み」

・聴覚障害の方とのツール

・パソコン等を活用した作業事例

・温かみのある「おせっかい」をやこうよ。

 

今回も、いずれも興味深い発表テーマで、現場の声がこれほどまでに集まる機会は貴重でしょう。成功事例だけでなく、失敗事例も共有されることに、本学会シンポジウムの意義があると感じています。就労支援に携わっている方、これから携わりたいと考えている方、障がい者福祉事業に関心のある方、社会貢献したい方、障がい者の方々に就労機会を提供したい方…すべての方々にぜひ聞いていただきたい内容です。

 

第4回の日本障がい者就労支援学会シンポジウムは、2023年2月に開催予定です。基調講演に関しましては、一般公開も予定しております。第4回でも今回に引き続き、坂本先生にご講演いただきます。ぜひご聴講ください。



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