虐待防止・いじめ防止のために知っておきたい3R「対応すること(Respond)」2022.06.14#新着情報
こちらの特設ページ(【令和4年度より義務化】障害者虐待防止の運営基準)にあるように、令和3年度障害福祉サービス等報酬改定のひとつとして、「障害者虐待防止の更なる推進」が発表されており、令和4年度から運営基準に虐待防止の内容を盛り込むことが義務付けられます。では、福祉事業者としてどのような取り組みをすることが望ましいのでしょうか。別稿『虐待やいじめを防止するためには「認識すること(Recognize)」から』に引き続き、『いじめ防止の3R:すべての子どもへのいじめの予防と対処(学苑社)』を参考にしながら、虐待・いじめ防止について解説していきます。
障害者福祉施設等の虐待防止と対応
厚生労働省の『障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引き』によると、障害者福祉施設等の虐待防止と対応について以下のように書かれています。
障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した場合の通報義務
障害者福祉施設従事者等による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は、 速やかに、市町村に通報する義務があります。
立ち入り調査等の虚偽答弁に対する罰則
障害者総合支援法では、市町村・都道府県が同法に基づく職務権限で立ち入り調査を行った場合に、虚偽の報告若しくは虚偽の物件の提出、虚偽の答弁等を行った者を30万円以下の罰金に処すことができると規定されています。
通報後の通報者の保護
通報する際の通報方法として匿名でも可能であり、自分の身元が分からないように通報できます。個人情報を出した上で通報した場合にも、個人が特定されないように配慮をもって聴取されます。
虐待防止の責務と障害者や家族の立場の理解
法人の理事長、障害者福祉施設等の管理者には、障害者福祉施設等が障害者の人権を擁護する拠点であるという高い意識と、そのための風通しのよい開かれた運営姿勢、職員と共に質の高い支援に取り組む体制づくりが求められます。
参考:障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引き|平成30年6月 厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 障害福祉課 地域生活支援推進室
虐待・いじめの防止と対処
以下は学校等におけるいじめ防止に関して書かれた内容ですが、大人を「管理責任者」に、児童生徒を「障害者」に、いじめを「虐待」に置き換えれば、いずれも参考になるものです。
いじめの防止と対処-エビデンスに基づく効果的な実践 1.行動に関する包括的かつ重症的な枠組みを使用すること 2.適切な行動と対応の方法を教えること 3.大人による実効性のある管理を行なうこと 4.職員と児童生徒に対するトレーニングと継続的な支援を行なうこと 5.いじめに対処するうえで明確な方針を示し、適用すること 6.いじめ行動を監視し、追跡すること 7.いじめ事件が発生したときには両親に連絡をすること 8.現在進行中の心配事に対処すること 9.いじめを防止するための努力を長期間継続すること 出典:米国教育省,特別支援プログラム局(2015)「いじめの防止と対処-エビデンスに基づく効果的な実践」(Effective evidence-based practices for preventing and addressing bullying) 参考:『いじめ防止の3R:すべての子どもへのいじめの予防と対処』(P.52より) |
虐待を防止するための体制とスタッフトレーニング
厚生労働省の『障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引き』によると、虐待を防止するための体制について以下のように書かれています。
運営責任者の責務
理事長・管理者の責務の一つは、明確な組織としての「理念」(なぜ組織は存在するのか)、 「ミッション」(何を成すべきなのか)を示し、その「理念」と「使命」に基づく長・中期計画(ビジョン・未来のあるべき姿)を策定し、PDCAサイクルを回し続ける組織的運営をすることにあります。
理事長・管理者の二つ目の責務は、現場力を高めること、人材育成です。人材育成を組織的に行うには、組織的計画的な人材の採用と育成、対人援助専門職としての倫理と価値を自覚した質の高いサービス提供ができる対人援助技術習得のための研修の提供です。
参考:障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引き|平成30年6月 厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 障害福祉課 地域生活支援推進室
人材育成のためにどのような研修を行い、スタッフトレーニングを行うかは当協会でも講座を開催していますので参考にしてみてください。書籍『いじめ防止の3R:すべての子どもへのいじめの予防と対処』には、スタッフトレーニングの目標について、次のように書かれています。
スタッフトレーニングの目標 ・職員の意識を向上させ、いじめやはランスメントについての彼らの思い込みや固定観念を調査する。 ・いじめの定義を行ない、児童生徒をいじめや虐待のリスクにさらす潜在的な要素は何かを特定する。 ・いじめが、被害者の学業成績と長期にわたる情緒面や精神保健(メンタルヘルス)に与える影響について説明する。 ・いじめを経験している児童生徒、特にいじめ事件について報告ができない可能性がある知的障害やコミュニケーション面での障害のある児童生徒が示す兆候を特定する。 ・初期段階のいじめ障害者ハラスメントの言語的・非言語的な兆候を見つける。こうした兆候は関係性のいじめや、その他の微弱な形態のハラスメントと関係するためである。 ・一般的な子どものけんかと、いじめやハラスメントの事件を見分ける。 ・学級におけるいじめ防止の戦略と、職員と児童生徒の間に他者の尊重と社会性情動学習(ソーシャルエモーショナルラーニング)を増進する、年齢に合った活動を見つける。 ・有効なカリキュラム活動や授業について、カリキュラムの分野を超えて話し合う。得られた知見を、他のカリキュラム分野においても統合する。 ・いじめ事件に対処する標準的なプロトコルを振り返り、マスターする。具体的な報告の手段を含む。 ・いじめ事件に対する適切な対応方法について、コーチし、モデリングを行なう。 ・学校のデータやアセスメント調査の内容を振り返り、データに基づく意思決定を共有する。 参考:『いじめ防止の3R:すべての子どもへのいじめの予防と対処』(P.80より) |
次回は、3つ目のR「報告すること(Report)」について解説致します。
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