【成功事例】動画制作で「働きたくても外に出られない人たち」にスポットライトを2022.10.27#新着情報
社会福祉事業者の方を対象に、本協会ではインタビュー取材を行っています。今回は、NPO法人スポットライト・理事長の杉浦昇氏にインタビューを行いました。動画制作のノウハウ教育など、ひきこもりやシングルマザー、LGBT、障がい者などの「働きたくても外に出られない人たち」のために活動する杉浦氏。本稿では、その活動の原点をお聞きしました。
NPO法人スポットライト・公式サイト
https://spotlight.or.jp/
NPO法人スポットライト 理事長
杉浦昇氏
2001年より動画制作開始し、
2016年に独立開業。 累計 3000件以上の動画制作に携わる
2021年には株式会社フィルムガーデンを設立
社会貢献がライフワークだった
――杉浦さんはなぜ、今のNPOでの活動をはじめたのでしょうか? 自己紹介と、活動のきっかけを教えてください。
杉浦氏:NPO法人スポットライトでは、引きこもりやシングルマザー、障がい者の方など、なんらかの事情で自宅を出られない人たちに、動画編集やWEB制作、SNS運用などの職業訓練をして、一般企業への就職を目指す活動をしています。
「全ての人たちが輝けるチャンスを作ろう」というミッションを掲げていて、やる気のある全ての人たちがチャンスをつかめるように、今までの固定概念や先入観に捉われない働き方を常に目指していくとことが私たちの使命です。
「不平等のない社会・輝き続けられる社会へ」というのが、私たちが実現したい社会で、私たちの活動を通して、社会全体からも不平等をなくし、短期的ではなく長期的に安定した活躍が約束された社会の実現を目指しています。
――NPOの紹介動画に出てくる、「やる気があるのに環境がないなんてもったいない!」というフレーズが印象的でした。
杉浦氏:ありがとうございます。自宅から出られない人も活躍できる環境を、つくっていきたいと思っています。今年の1月に立ち上げたばかりですが、現在10~20人が学んでいます。
NPOのほかに、動画制作・WEB制作の会社も経営しており、子どもの頃から映像や写真が好きだったので、それが今につながっています。父親がパナソニック勤務だったこともあって、家には機材が充実していました。デッキをつないで動画の編集をしたり、学生時代はコント映像を撮ったりもしていました。
卒業後は、フリーペーパー制作会社で営業をしたりして、その後、ウエディングや企業のパーティーの映像を制作する会社に10年くらいいました。その経験が、今の仕事や活動に直結しています。
――NPO法人を立ち上げたのは、どんなきっかけがあったのでしょうか?
杉浦氏:学生の頃から社会貢献が好きで、時間があるときに介護施設で劇をしたりしました。音響の手伝いなど、趣味的な活動、ライフワークですね。単純に、そこにいるのが心地良くて楽しかったので続けていました。劇をみた人が喜んでくれるのがまたうれしくて。
そういった経験があり、「なにか役立つことがしたい」という思いがずっとありました。
「働きたいけど働けない人たちがいる」という事実を知る
杉浦氏:そんなライフラークをしていることを私の友人・知人は知っているので、障がい者就労支援施設でマナー講座をしている人から、「ワードやエクセルの使い方を教えてくれないか?」という相談をされました。それで、障がい者就労支援という世界を少し知りました。
そんな活動を続けていると、今度は「ひきこもりの人向けにセミナーをやってくれないか?」という相談が、知り合いの知り合いの知り合いからありまして。そこがNPO法人で、「働きたいけど働けない人たちがいる」ということを知るきっかけになりました。
正直、「働きたいけど働けないって、怠けているだけなんじゃないか」と思っていたのですが、実際に会ってみたらやる気がすごくある。じゃあ、なぜ働けないのか? それが気になってコミュニケーションを重ねていって、人間関係やコミュニケーションにハードルがあることが理解できてきました。そんな活動を3年ほど続けて、動画編集やWEB制作の仕事ができる人が増えてきて、「これはもっと力を入れてやっていこう」ということで、自分でスポットライトを立ち上げました。
動画編集は、在宅でできる仕事です。人間関係やコミュニケーションに不安があっても、納期と品質さえ守れれば良いわけで、自宅から出られなくても仕事をすることができます。在宅でも仕事ができ、社会との接点・関わりができ、人の役に立てる。そんな人を、一人でも増やしていきたいと考えています。
コロナで在宅ワークへの理解が拡大
――在宅ワークへの理解も、コロナで拡大してきているので、時代に合った活動ですね。
杉浦氏:動画編集やWEB制作も、広い意味ではIT人材であり、その人手は不足しています。コロナで在宅ワークが認められる時代になったことで、「あとはマッチングすれば良い」と感じました。今年の1月にスタートしたばかりなので、正直なところまだ強力な手ごたえはないのですが、今後それは得られると思います。
ただ、ひきこもりという問題は行政の福祉総合相談室などが対応・対策するのですが、シングルマザーや障がい者の方のように行政も数を正確には把握できていないという課題があります。顕在化しにくいので、外部からは認知できず、支援の機会をつくることが難しいという面もあります。そのため、私たちも情報発信力を高めて、働きたくても外に出られない人たちから私たちの活動を見つけてもらえるようになる必要があります。
――こういったインタビュー記事などで、少しでも役立てれば私たちもうれしいです。今、学んでいる方たちは、どのような課題を持っているのでしょうか?
杉浦氏:対人関係が一番の課題で、20代前半くらいの人が多いのですが、みんな「このままじゃいけない」と思っています。リモートを主体にレッスンしているのですが、リモートでは便利ではあるのですが、相手の様子や表情など、ニュアンスが見えないところがあります。伝わっているかわからないもどかしさがあり、対面・リアルの大事さを感じているところです。
リアルの方が良いのかも…と思い直しているところもあるのですが、そうなると、教室まで出て来られる人だけにしか提供できなくなってしまうというジレンマがあります。試行錯誤の連続なのですが、2~3年で方法を確立して、成果を出していきたいですね。
今は、みんな動画制作を手軽にやっていますし、YouTuberもいます。才能や技術を競い合っている世界なので、動画編集は厳しい世界です。動画編集の初歩の初歩までを教えるのに3ヶ月はかかりますし、編集技術には上限がなく、本人次第でいくらでも磨き上げることができます。レッスンを始めたからといっても、すぐに仕事になるわけではないので、地道な努力が欠かせないと思っています。
長く働くためには調整役が不可欠
――一般企業への就職後は、どのようなことに配慮が必要なのでしょうか?
杉浦氏:お手伝いしていたNPO法人では、働いて自立できるくらい稼げるようになった人もいました。「直接雇用したい」という話も、企業からあったのですが、NPO法人で仕事量などの調整をしていました。だれか調整役がいないと、責任感が強いのでその人は全部引き受けてしまうんです。それで、やがてプレッシャーに圧しつぶされてしまう可能性がある。だから、仕事ができるようになってもNPO法人が間に入って調整しています。
ただ、それだけコンスタントに仕事ができるようになるのは、だいたい10%の人だけです。レッスンに来なくなる人が多いのが実状で、脱落してしまうのは「難しいことをやろうとしている人」に多い傾向があります。例えば、動画編集でも最初からCG編集や映画の編集などの壮大な目標を掲げてしまうと、技術的にそこまで到達できずに挫折してしまいます。
一度でもつまずくと、そのまま来なくなってしまいます。もちろん実現できたらカッコいいのですけど、できることからスモールステップで進める必要があると思います。
一人ひとり個性や課題は異なりますから、常に調整役は欠かせないと思っています。私たちが在宅ワーカーと企業をつなげるハブ、調整役になって、社会課題を解決していきたいですね。ひきこもりや不登校の人は増えていますから。
――企業に就職させて終わりではなく、調整役は欠かせない存在ですね。では最後に、この活動のやりがいについてお聞かせください。
杉浦氏:できなかったことができるようになって、その人が生き生きし始める瞬間に立ち会えることは、すごくうれしいです。誇らしげな姿をみたいと思っています。
今は、FIRE(経済的自立と早期退職)など、なぜか働くことに対してネガティブなイメージがあります。働いている方が人は生き生きすると思いますし、働かずに生きていくのが幸せなのかという疑問があります。動画編集やWEB制作でいえば、自分がつくった映像や作品が世に出る喜びは、代えがたいやりがいや充足感につながると思います。この活動を通じて、生き生きと生きられる人を一人でも増やしていきたいですね。