「指定申請の突破術」【始めよう!ソーシャルワークシェアリング】 vol.72022.11.16#新着情報
本協会では、2021年5月に神奈川県川崎市多摩区にて開業した「ほまれの家登戸店(ほまれの家グループ、運営:Future WINGS株式会社)」、2022年4月に神奈川県相模原市にて開業した「インフィニピー小田急相模原(ほまれの家グループ、運営:インクルクー株式会社)」それぞれのオーナーであり、本協会の理事でもある奈良有樹と今野洋の実体験をもとにした≪就労継続支援A型事業立ち上げ実践会》を開催しています。本稿では、実践会の様子を振り返りながら、就労継続支援A型事業所の開業、およびソーシャルワークシェアリングという新しい社会概念の普及までの道のりを連載でご紹介していきます。第7回のテーマは、「指定申請の突破術」です。
第1回「就労Aの仕事受注の誤解」
第2回「就労Aの物件探しのポイント」
第3回「人材採用と資金調達」
第4回「就労Aの仕事獲得の重要ポイント」
第5回「就労Aの資金調達の重要ポイント」
第6回「就労Aの事前相談の重要ポイント」
指定申請とは
社会福祉事業における「指定申請」とは、就労継続支援(A型・B型)や就労移行支援、就労定着支援、自立生活援助、共同生活援助などの、障がい福祉サービスを提供する事業者が、指定権者(行政)の認可を受けるために必要な申請のことです。
ほまれの家登戸店を経営する本協会理事の今野は、令和2年10月にほまれの家グループにフランチャイズ加盟した後、令和3年5月に登戸で開業しています。本実践会は、同年3月に行われたもので、開業2か月前というタイムリーな時期の開催でした。
※ほまれの家登戸店の指定権者(行政)は神奈川県川崎市であり、基準や書式等は各行政によって異なりますので、あくまでも参考としてご覧ください。
今野は、この指定申請にあたり、令和3年1月19日に指定権者(行政)との事前相談を終え、同月26日に物件契約が完了。翌月2月4日には日本政策金融公庫の融資実行を受け、順調に開業までの準備を進めていました。
2月8日には、内定を出していたサービス管理責任者の実務経験証明書を取得。26日に協力医療機関との協定を進めている矢先に、2月27日にはサービス管理責任者から「働けないかもしれない」と連絡が入り、3月4日には正式に辞退の連絡が。開業が迫るなか、「この後どうする?」という状況下での立ち上げ実践会。まさにリアルな現場の声を反映している実践会になっています。
話を戻し、「指定申請」書類作成の前提となるのは以下の点です。
・法人設立が完了していること
・物件の契約が完了していること
・事業が決まっていること
・人材が決まっていること
※管理者兼サービス管理責任者1名、他2名以上(スタート時点で計3名)
この場合、定員数は15名になる(定員数を20名にする場合は、もう1名の採用が必要)
・事前協議を終えていること
「指定申請」書類作成時のポイント
指定申請書類作成時のポイントとして、実践会では「こちらで時間をコントロールできない書類は早めに着手すること」が挙げられました。
指定申請書類は、A4用紙で50枚以上、約70枚もの書類を用意する必要があります。開業する事業者だけで準備できる書類と、相手に動いてもらわないと準備できない書類があります。
その一例が、「実務経験証明書」です。実務経験証明書は、本当に採用予定者がサービス管理責任者として働ける人かどうかを指定権者(行政)が判断するための書類です。「実務経験5年以上」という基準があり、資格があれば良いわけではありません。また、過去にサービス管理責任者として働いた経験があっても実務経験証明書の発行が必要になります。
実務経験証明書は、過去にサービス管理責任者が働いていた勤務先に署名と捺印をいただく必要がある書類です。そのため、採用予定のサービス管理責任者に動いてもらう必要があります。
当協会理事の奈良は、社会福祉法人勤務時代には、この実務経験証明書を発行する側にいました。奈良曰く、
・発行する側としては、めんどくさいだけでメリットがない
・無断欠勤や退職した人もいるので、心理的にもめんどくさい
と、当時の心境を語ります。その対策として、「手間がかからないようにしてあげること」が挙げられました。例えば、
・書き方の見本をつける
・返信用封筒を準備する
・押印して封入、投函すれば良いだけにする
などの工夫が挙げられました。些細なことですが、この工夫をするだけでも相手の心情は変わるそうです。
今野からは、実務経験証明書の発行を依頼した際の相手の心情として以下の整理がされました。
・お願いした時間帯がよくなかった
・勤務日数や勤務期間など、過去5年間分の勤務表を確認する必要があり、めんどくさい
・書き方がわからないから、めんどくさい
・人として嫌いだったから対応したくない(関わりたくない)
・単に郵送手続きがめんどくさい
・稟議に時間がかかっている(業務の優先順位が上がらない)
実務経験証明書は法人として準備する書類なので、依頼したとしても相手もすぐには用意できないことを知っておく必要があるでしょう。
実務経験証明書を発行できない場合の対処法
実務経験証明書の発行を依頼しても、取得できないケースがあります。
・サービス管理責任者本人が気まずい辞め方をしている
・相手が多忙で発行してくれない
・すでに事業所が閉所しており存在しない
・勤務先に実務経験証明書の発行を知られたくない
などの理由です。
勤務先に実務経験証明書の発行を知られたくない場合に関しては、「資格取得のために必要」など、伝え方を工夫してもらい転職を知られないようにする必要があるでしょう。
また、サービス管理責任者本人が言いにくい場合は、代理人を立てることもあります。その場合は行政書士などに依頼します。
実務経験証明書の発行を依頼する前には、以下の点について確認しまとめておきましょう。
・電話者がサービス管理責任者本人なのか、代理人なのか立場を明確にする
・いつからいつまで働いていたのかを明確にしておく
・なぜ実務経験証明書の発行が必要か、理由を簡潔に伝える
・実務経験証明書がいつまでに必要か伝える
・いつまでに実務経験証明書を発行できそうか確認する
・書式を持っているか、こちらが用意するかを伝える(行政の書式を渡した方が確実)
・相手は忙しいので、上記を整理して最初はメールで問い合わせるのが望ましい
「勤務先の事業所が潰れてしまった」場合は、事業者と連絡が取れないことがほとんどです。その場合、まずは指定権者(行政)に相談してください。対応は、指定権者(行政)によって異なりますが、事業所が閉鎖していることを証明する必要があり、「閉鎖事項証明書」を法務局で取得する場合や、事業者と連絡が取れれば閉鎖を証明してもらう場合などがあります。
また、実務経験証明書には有効期限があるので注意が必要です。指定権者(行政)によって期限は違いますが、3か月~半年が一般的なようです。ちなみに川崎市は有効期限はなく「特段古くなければOK」という曖昧なルールでした。曖昧な場合は、指定権者(行政)の担当者に確認しておくと安心でしょう。
次回は、サービス管理責任者の要件について取り上げます。