就労継続支援A型事業所の「アンゾフの成長マトリクス」による経営改善 7つの施策とこれを支える4つの要素
経営を取り巻く環境が大きく変わるなかで、成長を続けるため、経営を改善するためにはどのような成長戦略をとれば良いのか。そのヒントとなる考え方、フレームワークの一つが「アンゾフの成長マトリクス」です。
アンゾフの成長マトリクスとは
イゴール・アンゾフ(1918-2002)は、「戦略的経営の父」とも呼ばれるロシア系アメリカ人の経営学者です。
成長戦略を、市場と製品を軸にして、既存商品の「市場浸透」「市場開拓」と、新商品の「商品開発」「多角化」の4つに分類する手法である。
市場浸透戦略 「既存製品×既存市場」
いままでの市場に、既存の製品やサービスを投入して、売上高や市場シェアの拡大をめざす戦略です。市場浸透戦略では、製品の認知を上げたり、購入意欲を高めたりすることが大きな課題となり、戦略の主な目的になってきます。
価格UPの他に、収益向上のために、原価管理、生産性向上などの施策も考えられます。
商品開発戦略 「新規製品×既存市場」
いままでの市場に、新しい製品やサービスを投入して、売上を拡大しようとする戦略です。既存市場のニーズに対応した製品やサービスを開発すること、競合と差別化を図ることができる製品やサービスを開発すること、それができるかどうかが、重要なポイントになります。
市場開拓戦略 「既存製品×新規市場」
既存の製品やサービスを新しい市場に投入して、勝負します。その市場に競合がいる場合は、商品力はもちろんですが、営業力・販売ネットワーク等の「売る力」が勝負を左右することも多くなります。
多角化戦略 「新規製品×新規市場」
新しい市場に新しい製品やサービスを投入する戦略です。多角化戦略は、ほとんど経験のない市場で新製品を投入するため、マーケティングのコスト、製品・サービスの開発コストがかかるなどのリスクがあります。リスクがあっても新しい収益源を求める時、または求めなくてはならない時に、ハイリスク・ハイリターンの多角化戦略がとられます。
就労A事業所での7つの経営施策
1. 価格 UP 値上げ、 価格交渉の実施
2. 商品開発 既存顧客へ新規商品を提供
3. 販路開拓 既存商品を新規顧客へ提供
4. 原価管理 原価率の低減 (自主商品のみ)
5. 生産性向上 利用者の能力向上、 工程細分化等
6. 新規事業 新規顧客へ新規商品を提供
7. 絞り込み / 撤退 注力度を下げる、 ないしは辞める
就労A事業所の経営施策を支える4つの要素
1. 事業計画作成
・平成 29 年度「生産活動収支≧賃金」と「生産活動収支<賃金」の事業所を分け、注力していることの違い を 17 項目で評価した。その結果「損益分岐点売上高の正確な把握」「事業計画の精緻さ」に差異があった。
・経営改善計画はあくまで概要であり、別途、売上拡大や利益拡大等の戦略に対して、具体的な計画に落とし込み、それを実践することが大事である。
2. 利用者支援
・就労継続支援 A 型の本来業務は、利用者の能力を引き出すことである。適材適所の支援と足りない部分の支援を組み立て、本人の障害特性で成しえないことへの配慮・工夫が必要となる。
・なお、「作業アセスメント表」を活用することが有効である。
<作業アセスメント表作成のメリット>
・利用者別にできる/できないことが細かく理解できる
・これをできるようにするために、環境支援(治具開発等)や、人的支援の方針を検討することができる
・支援内容が明確になり、支援者によって支援内容が異なる等の本人の混乱を防ぐことができる
・複数の評価者で評価する際、差が生じる。これを議論し視点を統一化していくことで、支援力が整う
・その目標設定と支援内容は、個別支援計画に連動させることができ、個別支援計画策定の自動化が図れる
・自己評価できる方であれば、それを支援者の評価を突合させ、その差異を認識すると共に、次の目標設定の話し合いに使うことができる
3. 達成意欲
・利用者及び支援者のモチベーションを上げる工夫は、高い目標を掲げる就労継続支援 A 型には必須と考えられる。資格取得や表彰制度、研修制度等、あらゆる工夫によって明るい職場を作り上げている。
4. 支援活用
・就労継続支援A型は、特に社会との接点づくりが大切である。通常の地域福祉を担うためのネットワークはもちろんのこと、一般企業や経済団体との繋がりがより一層必要とされる。
経営改善の事例
実際の事例の紹介はこちらをご覧ください。
「平成30年度 就労継続支援 A 型事業所の経営改善に関する事例集」
「令和2年度 就労継続支援 A 型事業所の経営改善に関する事例集」
参考資料
この記事は、
厚生労働省「就労継続支援 A 型事業所の経営改善に関する調査研究事業報告書」
および、中小企業庁 中小企業向け補助金・総合支援サイト「アンゾフの成長マトリクス」をベースに構成しました。